共感を軸に結ばれたパートナーシップ。
カケハシ電気からはじまる社会課題への本質的なアプローチ。

株式会社イーネットワークシステムズ 取締役 大澤哲也(左)
認定NPO法人「夢職人」理事長 岩切準 氏(中央)
三ッ輪ホールディングス株式会社 代表取締役社長 尾日向竹信(右)

三ッ輪ホールディングスグループで電力小売プラットフォーム事業を展開するイーネットワークシステムズ(ENS)と認定NPO法人 夢職人とのコラボレーションから生まれた「カケハシ電気」。従来の電気よりも安価に利用できるだけでなく、子どもの支援や環境にも貢献するソーシャルグッドな電力サービスです。エネルギー問題と同時に福祉や教育問題にまで一石を投じるカケハシ電気が立ち上がるまでのエピソード、今後のビジョンや課題について、三ッ輪ホールディングスの尾日向代表、ENSの大澤取締役、夢職人の岩切理事長のお三方に語っていただきました。

「食」の支援から「教育」の支援へ

―まずはカケハシ電気のサービス概要を簡単に教えていただけますか?

大澤:もともとENSが持つビジネスモデルの特徴として、電力料金の削減額分を価格に反映するだけでなく、何か別の新たな価値に置き換えていこうという思いがありました。これまでもビットコインや投資などさまざまな形への価値転換を行ってきた実績があります。

岩切:今回リリースされたカケハシ電気の場合、われわれ夢職人が立ち上げたプロジェクト「Table for Kids」への寄付という形で反映されています。Table for Kidsとは新型コロナウィルスなどの影響で経済的に厳しくなった子育て家庭を対象に食の支援を行うというもの。家庭に付与したポイントが街の協力加盟店で使える仕組みにより、早く確実に、かつ継続的に支援ができるという特徴があります。

尾日向:もともと夢職人さんは子どもや青少年の教育活動を通じて「学校では学べない体験の場」を提供する事業を展開していましたよね。その取組みとTable for Kidsとはどういった結びつきがあるのでしょうか?どう関係してくるのか、非常に興味深いところです。

岩切:体験活動事業はわれわれがはじめた17年前に比べて市場化が進みました。スポーツクラブや旅行会社、学童なども進出していますからね。その中でわれわれのポジショニングをあらためて考えたとき、NPOとして、子どもの教育に対する意識や所得が高くない家庭へのアプローチはどうだろうかと。様々な調査研究からも、経済面の格差が体験格差につながり、その後の学習意欲や将来への期待感に影響を及ぼしていることも明らかになっています。ところが一番難しいのが、そういった家庭にどうアクセスするかという問題でした。この点にどこのNPOも苦戦していた。

尾日向:なるほど、それで食の支援から?

岩切:おっしゃる通りです。食に関心のない家庭はありませんから、そこでつながりを持ち、ご家庭の状況を把握していく。食の支援からはじまるので関係性も育みやすく、アンケートなどにも協力的にご回答いただきやすいです。そこで子どもがストレスフルな環境にいるとか、不登校だということが明確になれば手が打てる。Table for Kidsを通じてこちらからお困りの家庭を訪ねていけるわけです。今は食の支援が中心ですが、今後は体験活動に招待したり、他団体と連携した教育支援へと展開できるのではないかと戦略的に考えているんです。

尾日向:経済的に困窮している家庭と、食というチャネルでつながっていく。そこから教育含め、いろんな提案を通じて子どもの将来を明るく照らすわけですね。いま現在の経済格差が子どもたちの格差につながらない社会をつくっていこうと。なるほど…このアプローチはNPOに限らず一般企業でも有効ですね。

電気代の単価を下げるよりも大切なこと

尾日向:エネルギー事業者として、個人のご家庭の場合「光熱費の単価が下がる」という切り口での感応度は実はあまり高くないと感じています。価格よりも「何らかの貢献ができる」とか「『想い』に原資をつかってくれる電力事業者に申し込みたい」という層に向けて、カケハシ電気はまさに「Table for Kidsの取組みに対する共感」が訴求力になるわけです。

大澤:最近SDGsとかカーボンニュートラルとか、マーケティング用語として拡大していこうという事業者が目立ちますよね。それ自体は悪いことではないのですが、本質的に困っている人、社会課題のあるところにアプローチできている事業者はそれほどいないのではないでしょうか。カケハシ電気はそこがクリアになっているという点で大きなアドバンテージを誇るサービスだと思っています。

―最初に声をかけたのはENSサイドからだったそうですね。

岩切:新電力系の事業者さんからのお声掛けは以前から多くありました。ですが実際に電気を切り替えていただくご家庭やお店、企業のことを考えた時、かなり責任が大きい話になるなと。提携するならそれ相応の体制があり、自信を持って提供できるサービスでないといけない。プラットフォームが乱立する中、どうしても事業者の顔が見えなかったり、何かあったときにきちんと対応してくれるかの見極めも困難でした。インフラ系のテーマはもう少し熟考が必要だということで、やるとしてもしばらく先のことだと思っていたんです。 大澤:私はそんなタイミングでお声がけしてしまったんですね(笑)。

岩切:歴史あるエネルギー企業グループだということもあり、なかなかスピーディに話が進まなさそうだ、難しいだろうなと当初は思っていたのですが、御社の求人を見るとメッセージや求める人物像が全然イメージと違う。ベンチャーそのもので、既存のアセットを活かした上で新しいものを創る決意を感じたんです。そういう人材を集めているということは、ベンチャーマインドが口先だけでなくカルチャーとして根付いているのではないかと思いました。

尾日向:求人を見るとは驚きの着眼点です。でも本当にその通りで、私たちが目指している姿を理解してくださったことは嬉しいですね。まさに当社には歴史もあり、LPガスで培われたスタティックな部分から社会インフラ事業者としての責任感を強く持っています。その上でさらに新しい価値を創り続けていくんだという思いを持って事業に取り組んでいるので、その点をご評価いただけたことはありがたいです。

岩切:あと大澤さんとやりとりする中で感じたのは、非常に正直ということです。デメリットも含めて全てお話いただけるので、われわれも切り替えてくださるご家庭や企業に説明しやすいんですよ。ここはウチは向いてないですよとか、ここまではフォローできますがここから先はできません、と率直に言える。これは先ほどの責任という面で重要なポイントです。

みなさんの思いのカケハシになりたい

大澤:岩切さんからの質問は本当に鋭いんですよね(笑)。しっかりと考えて回答しないといけない。でも、そこが私たちにとっても良かった点でした。歴史と責任のあるエネルギー事業者としていい加減なプランをつくる気は最初からないですし、提携先とも真摯に向き合い、時間をかけて良いパートナーシップを築いていくことが大事だと思っていますから。

尾日向:思いのこもったサービスでありながら、立ち上がりは早かったよね。大澤がしっかりと企画を作り込んできてくれたからだけど。内容がしっかりしていないと私もかなり細かくツッコみますから(笑)。でも今回の岩切さんとの座組は最初から素晴らしいと思ったし、夢職人さんの活動もわれわれのビジョンに一致するところが多いですよね。

―サービスをリリースしてから感じることはありますか?

岩切:Table for Kidsでつながっているお店にカケハシ電気の話をすると「こんなプランがあるんだね」と非常に喜ばれますね。これまでの新電力系サービスって安くなる以外の指標があまりなかったみたいで。電気代が高騰するタイミングにSDGsへの関心の高まりが上手く重なって、お得に社会貢献できるなら、とみなさんものすごくポジティブに検討してくださいます。

尾日向:これまで無色だった電気に色が付いてきたんですよね。新電力事業者が600社を超えたいま、価格だけでなく環境という軸もあれば安定供給という軸もある。いろんな評価軸がある中、独自性をいかにわかりやすく伝えていくか。そういう意味ではエネルギー事業者だけで色をつけるのではなく、組ませてもらう団体の個性や、その取り組みが何に繋がっていくのかを見せられるのは非常に意味があることだと思いますね。

大澤:当面の目標としてはサービスを磨き上げながら、より多くの人に使ってもらうこと。共感マーケットを広げていきたいんですよね。尾日向が言う通り、いま世の中にはいろんな新電力のいろんなプランがあります。その中でカケハシ電気を知ってもらう。あわせて日本では「寄付」という概念自体があまり根付いていないので、それを広めていくこともひとつの課題といえるでしょう。寄付の文化が広がることはSDGsにもつながると思いますし。

岩切:そういったみなさんの思いの架け橋になりたくて、「カケハシ電気」という名称にしました。

契約してくださる方の思いをしっかりと汲んで経済的に困窮している家庭の支援につなげていく。その架け橋としてのサービスに育てていきたいです。

―本日はお忙しい中ありがとうございました!

尾日向 竹信(三ッ輪ホールディングス株式会社 代表取締役社長

1980年生まれ。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修了。その後入社した野村総合研究所ではコンサルタントとして活躍し、2007年5月三ッ輪産業株式会社に入社。三ッ輪液化瓦斯株式会社の代表取締役を経て、2015年11月に三ッ輪産業株式会社の代表取締役に就任。2019年10月には三ッ輪ホールディングス株式会社を設立し、代表取締役に就任。

【三ッ輪ホールディングス株式会社】https://mhdg.co.jp/

大澤 哲也(株式会社イーネットワークシステムズ 取締役

欧州系経営コンサルティングファームでの勤務を経て、2015年に三ッ輪産業株式会社に入社。2019年11月に三ッ輪ホールディングスの取締役兼経営戦略本部本部長に就任。現在はイーネットワークシステムズ取締役としての事業拡大と並行し、グループ全体の成長にむけた戦略立案に取り組んでいる。

【株式会社イーネットワークシステムズ】https://www.enetsystems.co.jp/

岩切 準 氏(認定NPO法人「夢職人」 理事長

1982年生まれ。東洋大学大学院社会学研究科社会心理学専攻修了。2004年に子どもや若者を対象とした社会教育事業に取り組む「夢職人」を設立。首都圏を中心に、自然体験・野外活動、スポーツ・レクリエーション、科学・文化・芸術活動、社会体験・キャリア教育等を展開。コロナ禍では、スマホ決済の仕組みを活用し、経済的な事情を抱える子育て家庭に対する新たな食の支援を開始。2014年からは教育格差の解決を目指す公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」理事も務める。

【夢職人】https://yumeshokunin.org/

●カケハシ電気

https://tfk.yumeshokunin.org/energy

●Table for Kids

https://tfk.yumeshokunin.org/