【特別対談】尾鷲市と三ッ輪ホールディングスが描く「脱炭素と次世代教育」の未来像
2022年3月、三重県尾鷲市と三ッ輪ホールディングスは、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた包括協定を締結しました。以来、両者は単なる官民連携の枠に留まることなく歩みを進め続けています。
三ッ輪ホールディングスは、役員を含むメンバーが現地に出向くほか、グループ会社である株式会社paramitaの知見を総動員して尾鷲市の取り組みをサポートしています。こうしたサポートを通じて、森林の価値化を目的とした「J-クレジット」の創出や「ネイチャーポジティブアクション会議」の開催など、先進的な取り組みを次々と実現してきました。こうした官民連携の功績は、企業版ふるさと納税を通じた支援に対する「紺綬褒章」受章という形でも高く評価されています。
協定締結から4年、脱炭素の先にある「ネイチャーポジティブ」そして次世代のための「教育」という新たなフェーズに向かう尾鷲市長・加藤千速氏と、三ッ輪ホールディングス代表・尾日向竹信が、これまでの歩みと、持続可能な未来への思いを語り合いました。
協定締結から4年。「連携」を超え、尾鷲の未来を共創する「実装パートナー」として

加藤市長: 三ッ輪ホールディングスさんには、2022年3月に「ゼロカーボンシティ実現に向けた協定」を締結して以来、一貫して尾鷲の未来に伴走していただいています。役員の方も含めて尾鷲市に深くコミットしていただいているおかげで、市の取り組みが国にも評価されはじめています。改めて、この深い連携に感謝を申し上げます。
尾日向: 「100年後の地球と地域をどう守るか」という対話を重ねる中で、「22世紀に向けたサステナブルシティ」という尾鷲市のビジョンに深く共鳴したことがすべての始まりでした。2025年には当社グループの株式会社paramitaが中心となり、尾鷲市で「ネイチャーポジティブアクション会議」も開催しましたね。単なる脱炭素施策ではなく、失われた自然を豊かに再生し、そうした取組を経済的にも成立させるという姿勢を示す良い機会だったと感じています。
加藤市長:尾鷲の豊かな自然資源を、地域を支える「資産」として、 都市部の企業の皆さんにも改めて訴求し直すことができました。我々はかねてより、単なる環境保護ではなく、地方創生や地域課題の解決が一体となった「官民連携の仕組み」が必要だと考えていました。まさにその「実装パートナー」としてご一緒いただくようになってから、もう4年が経とうとしているのですね。
尾日向: 私たちとしても、単なる「CSR」ではなく「官民協業のビジネスチャンス」であるという視点で、長期的なプロジェクトとして捉えています。新しい価値を創造するには、現場に身を置かなければ何も立ち上がりません。市長のような熱量のあるトップがいらっしゃるからこそ、私たちもアクセルを踏むことができます。
加藤市長: 事業として取り組む以上は「時間軸」と「エビデンス(数字)」をシビアに見ていくことが不可欠です。現在はまだ市が「おんぶにだっこ」の状態かもしれませんが、お互いにとってWin-Winな関係を築くことで持続可能なプロジェクトになればと考えています。その成果の一つとして、2025年には創出した1200トンのJ-クレジットが完売した他、数年後には年間約6,000トンのJ-クレジットの創出を想定しているなど、少しずつ実を結び始めていますね。
森、海、そして生物多様性が生む「企業誘致」のポテンシャル

尾日向: 「みんなの森」のプロジェクトも素晴らしい進展を見せていますね。人工林においても、ただしく人の手を入れることによって、森の生物多様性を回復させていく。森と海が近い尾鷲市ならではの包括的な取り組みがさらに結実してくれば、他の自治体にはない強力な企業誘致の訴求力になるのではないでしょうか。
加藤市長: 引き続き、机上の議論ではなく実証することを大切にしたいですね。今年の私のテーマは「情熱と行動力」です。行政はどうしても計画策定で満足しがちですが、実証がないと次へ進めません。
尾日向: 同感です。形が見えてくれば、投資にシビアな大企業も参入しやすくなります。当社が電力事業に参入した時も、最初は赤字からのスタートでした。前例のない領域で土台を作るにはリスクが必要ですが、地域でCO2の排出を抑え、森林による吸収量を増やしていくモデルには計り知れないポテンシャルがある。ここで得られる知見は、日本の地方創生における大きな資産になるのではないかと感じています。
加藤市長:おっしゃっていただいた通り、尾鷲には 森だけでなく「海」という資源もあります。15年前からケアを続けている尾鷲の藻場は、深刻な被害が出ている志摩や鳥羽などのエリアに比べて豊かさを保っているというデータもあります。現場の職員が自ら海に潜って、藻場の食害生物であるウニの除去を行うといった肌感覚の積み重ねが、大きな差を生んでいるのかもしれません。
次世代への投資。オルタナティブスクール設立への挑戦

加藤市長:ゼロカーボンシティ宣言では、脱炭素の取り組みだけではなく、次世代を担う人材育成としての教育移住も視野にいれた仕組みの構築も目標に掲げており、その取り組みも急務です。現在、尾鷲市内に「オルタナティブスクール」を設立する構想も進めています。様々な課題はありますが、最も大きい課題はイニシャルコストと持続的な運営資金の確保です。
尾日向: 新規事業には常に資金の悩みがつきものですね。特に教育はインパクトが長期的で見えにくいため、民間が参入しづらい領域です。だからこそ、受益者の整理を行い、「投資したい」と思えるスキーム作りを一緒に進めていかなければなりません。
加藤市長:「教育」という責任ある事業ですから、途中でショートさせるわけにはいきません。早急に資金計画に目処をつけて取り組みを進めたいと考えています。
尾日向: 私たちは、市長の「情熱を持ってまずはやってみる」という姿勢を支持しています。投資をしながら一緒に未来を見るパートナーとして、事業確立に向けて市長のリーダーシップをサポートさせてください。
加藤市長: ありがとうございます。ただ、そうした新しい挑戦を形にし、持続させていくためには、それを受け止める「組織」そのものが変わらなければならないとも痛感しています。
尾日向: おっしゃる通りですね。どれほど素晴らしい計画や資金があっても、それを動かす「人」の意識や組織の体質が旧態依然としたままでは、途中で失速してしまいます。
加藤市長: ええ。組織を動かすには、時にドラスティックな変革も必要です。時代に合った動きができる、新陳代謝し続ける組織にしなければなりません。
尾日向: 民間で実績を残されてきた市長だからこその視点ですね。エネルギー業界もライフサイクルが長く、独占的な側面もあったため、放っておくと緩みやすい環境にあります。だからこそ私たちは的確な人材配置と個人の仕事に対する熱量を大切にし、モチベーションの高い人材が裁量を持って動ける組織でありたいと考えています。
紺綬褒章受章が物語る、寄付を超えた「社会実装」への評価

加藤市長: 三ッ輪ホールディングスさんによる企業版ふるさと納税を通じた支援が、この度、紺綬褒章を受章されたことは、尾鷲市にとっても大きな誇りです。これは単に寄付をいただいたということではなく、その支援が地域の課題解決に真に直結し、社会的に極めて高い価値があると認められた結果だと思っています。
尾日向: 身に余る光栄です。官民協業の新たなモデルケースを作りたいという一心で取り組んできましたが、国家からこのような評価をいただけたことは、私たちの「地域と共に生きる」という覚悟が間違っていなかったという裏付けになりました。
加藤市長:三ッ輪さんのような企業がいてくれるからこそ、今の尾鷲市があります。このような連携を一時的なもので終わらせないためにも、私の任期内に、これまで進めてきたプロジェクトを集大成として完成させたい。紺綬褒章という光にふさわしい成果を、教育や環境の分野でも出していかなければなりません。
尾日向: ありがとうございます。当社グループは1940年に炭の製造販売から始まり、時代に合わせて形を変えながら地域と共に歩んできました。エネルギー事業者としてのノウハウを、どう地域の持続可能性に転換できるか。尾鷲市という最高のフィールドで、これからも執念を持って「ゆたかな地域づくり」に挑み続けたいと思います。

