■オリジナル版
【特別対談】ポスト資本主義の具現化を支える深い思想、卓越した技術力、そして飽くなき挑戦心。
2021年5月、三ッ輪ホールディングスはNext Commons Lab(以下NCL)が主催する社会課題解決に向けたイノヴェイション・プラットフォーム『Sustainable Innovation Lab(以下SIL)』に、運営・構築を担う特別パートナーとして参画しました。
企業や行政、自治体と連携しながら、まだ見ぬ社会を切り拓くための実験的なプロジェクトを展開するNCL。「新たな価値を創造し続ける」をミッションに、エネルギーの新たな可能性に挑戦する三ッ輪ホールディングス。タッグを組んだ2つの法人のトップに、ポスト資本主義、地方自治の問題点、SILに向けての意気込みを聞きました。
(本記事を要約したダイジェスト版はこちらからお読みいただけます)
思想の深度と実現までの距離感が抜群
―お互いの第一印象は?
林:伝統があり、事業内容から見ても堅い会社なのかなと思っていたんですが、実際に尾日向社長にお会いしたら意外にも若くて(笑)。自分たちの思っていることを話したらすぐに理解を示してくれたんですよね。いい意味でのギャップを感じました。
尾日向:林さんはそれまでに会ってきたどのスタートアップの人よりも、思想自体の深さを感じました。地域社会におけるお互いの貢献といった話も面白いだけでなく、デジタル技術や仮想通貨などで実装できそうだなと。世界観にも惹きつけられましたね。
林:ありがとうございます。世界観といえばNCL自体、資本主義という社会システムの限界というか、穴があきつつある中で、それそのものを変えるのではなく、新たにつくろうという意志から立ち上がったものでした。
―最初は高知でソーシャルビジネスなどをやられていたんですよね。
林:2011年ですね。社会を変えるにはまず地方からだ、といろんな取り組みの中で手応えや実績も得られたんですが、ふと、これいつまで続けるんだろう、と。どんなアクションを試みてもなかなか本質的な仕組みの部分が変わらないんですよね。なんとなくモヤモヤを抱えながら地方のプロジェクト立ち上げとか支援に関わっていたんです。
尾日向:エネルギー業界も3.11をきっかけに大きく変わるんじゃないかという、雰囲気というか、機運、みたいなものは業界内にありました。この痛ましい災害が様々な局面において与えた影響は小さくなく、電力・都市ガスの小売全面自由化と無関係ではなかったでしょう。
当社グループとしては大きく事業ポートフォリオを変えていくきっかけにもなりました。しかし、当初は“需要家のため”をお題目とした規制緩和といった強い流れがありましたが、時間とともにどちらかというと、揺り戻しが来てるとも感じます。最適な制度の在り方のアップデートは常に行われるべきとは考えますが、“需要家のため”という動機付けが薄らいでいるように見えるのは残念に思いますね。
林:そうなんですよね。で、2015年ぐらいに自分の中で社会を変えることに見切りをつけたほうがいいかな、という考えに至った。あきらめモードに陥ったんです。だけど同時に、だったら新しくつくればいいんじゃないか、という思いも浮かびました。
ちょうど時期的にも技術革新、テクノロジーの進化が加速した頃で、いろんな要素がつながってきて、もしかしたら可能性あるかもと。変わらないものを無理して変えようとするより、いい感じの距離感で付き合いつつ、新しくつくっていけるんじゃないかと。
―それがNCL立ち上げのきっかけだったんですね。
尾日向:日本には戦後に爆発的な経済成長を実現するために組み上げてきた経済・政治・行政の仕組みという“社会的アセット”があると思います。「高度経済成長期」という成功体験も相まって、変わりにくい土壌、というものを強く感じますよね。
そこに対してNCLは新しくつくればいいと。新鮮な発想だな、と思います。しかし、新しいものをつくると既存の“社会的アセット”、それこそ資本主義という巨象にばっくり食べられるという例を過去にいくつも見てきましたし、私も実際に自社の新規事業分野の中で体験してきました。
林:そうですね……だからこそ、これまでの資本主義社会を否定したり攻撃するのではなく、うまく利用しなくてはと考えています。いまの社会で誰がリソースを持っているかを冷静に見極めて、その人たちと有効につながる必要があるなと。
ひと言でいうと資本主義をハックするってことです。うまく内側からハックすることで新しいものを芽生えさせたい。
尾日向:我々とのコラボの第一弾である電力プラットフォーム『SOCIAL ENERGY』でいえばどんなことが当てはまりますか。
林:『SOCIAL ENERGY』の運営母体では組合型株式会社という座組を取り入れています。どれだけご出資いただいても議決権は一票しか持てない株式会社です。
―要は組合みたいな、コープ状態ですね。
林:イーネットワークシステムズさん(三ッ輪ホールディングスグループ)は45組の株主でいちばん多く出資いただいています。でも議決権は一票。『SOCIAL ENERGY』上で電力サービスを展開する各地のローカルプレイヤーも必ず株主に参画いただきます。
実際に価値を生み出し社会にインパクトを与える当事者同志が、会社を受け皿として共同所有し、利益もしっかり分配する。こういったことから資本主義をハックしていければと思っているんですね。
尾日向:既存のシステムをハックしながら、新しい社会のあり方をプロトタイピングしていくというスタイルですね。林さんは資本主義のどのあたりに問題点、懸念点を感じているんですか?すべてひっくり返すわけじゃないのであれば、どこの部分に強く問題意識を抱いているのか。
林:世界の富裕層上位30名ぐらいの人たちが、世界人口の半分の総資産と同額の富を保有していると言われていますが、それって下が上に勝とうと思っても無理ですよね。金融資産という一つの軸で、社会における活動範囲や可能性が縛られている状態ってシステム的にバグっている。面白くないです。
あと資本主義はあらゆるものを私有物化してマーケットで交換するメカニズムなんですが、マーケットに置いてはいけないものもあるんですよね。
尾日向:ありますね。この間沖縄に仕事ででかけたとき、洋上に風力発電の施設がバーンと立っていて、サンゴ礁が削られているんです。さらに周囲の道は立派に舗装されている。ここで再生エネルギーの環境価値が生まれるんだけど、それが消費されているのは都心部。
でもその土地の人からしてみればそこでサトウキビ作るより、土地を差し出したほうが金になる。ほぼ選択肢はないんです。それって搾取じゃないかと。カーボンフリーという考え方も地方と都市で考えると搾取なんです。これこそマーケットに置いてはいけないものではないですか。
システムを変えなければいけない
尾日向:日本だけでなく国際的にも東南アジアの日照率が高くて土地に空きがあるところにバーっとソーラーパネルを並べていく。その地域の人にとってはそれしか手がないんです。搾取の問題と資本主義って同列で語れると思うんですよ。
だって明日食うのに困っている人が環境のことなんて考えられないわけですし。結局は環境問題も資本主義の中に組み込まれているゲームなんじゃないかと。
林:やっぱりコストの外部化が大きな問題ですよね。僕らが日常的に安くて旨いものを食べられるのも、どこかの諸外国にそのコストを押し付けているから。ソーラーパネルもそう。価値軸が金融資本なんです。つまり、これお金になるの?っていう。
尾日向:「一銭にもならない山を持っているぐらいなら、全部皆伐してソーラーパネルを敷き詰めたほうが良い」「再生可能エネルギーって流行ってるし、何よりお金になるし」っていう発想ですね。
林:だけど失っているものもあって。山が弱くなって土壌が流出しているとか、景観が失われるとか、いろんなコストを払っている。あるいは未来に対してコストを外部化しているのに過ぎないんですよ。だからといっていま、山のオーナーを批判するのは酷な話。そもそもシステムが悪いんだから。
―やっぱりシステムを変えないといけない。
林:つまり「土地を私有財化して自由にマーケットで売り買いできるのは正しいのか?」ということです。そうじゃないなら土地や山、自然資源はコモンズ化していくべきじゃないでしょうか。コモンズ、つまり共有財としてみんなで共同所有して、数百年という単位で守っていくことができれば。
尾日向:そういうことをしていかないと搾取と消費でいろんなものが失われていってしまいそうですね。ところでコモンズ化する単位というのは、その地域というレベルの認識ですか?
林:試行錯誤でしょうね。どのレイヤーでコモンズ化していくか、ということなので。個人が帰属するコミュニティも多面化していますし。ただ人数についていえば、人類学者のロビン・ダンバーが提唱しているダンバー数が参考になるかもしれません。霊長類の脳を占める大脳新皮質の割合と群れの構成数に相関関係があって、人間が仲間として認識できる人数の上限は約150人だと言われているんです。
―150人!意外に少ないですね。
尾日向:絶妙な数字ですね(笑)。ちなみに150人のユニットは近くにいなくても、たとえば志ベースでつながっていてもいいんですけど、何かを守っていくことになりますよね。それを守るためにはある程度経済活動を回す必要があると思うんですが、その手段とはどんなものが考えられますか。外にある別の150人のユニットから経済活動するのか、それとも…
林:経済活動はもっと幅広く、例えば「グローバル経済の中で自分たちが作った商品を、海を超えて違う国に売る」ということでもいいと思います。貿易ですね。それ以上に大切なのは150人単位でコモンズを守るとき、労働と生活を結びつけることです。今の社会は労働と生活が切り離されています。だから金さえ稼げればなんでもいいってことになるんです。
だけどそこが結びついていると自分たちに必要なものをつくり、自分たちでメンテナンスしていくことになります。そしてそこにはエッセンシャルな働き手が必要になる。
尾日向:たとえば森の管理、あるいは地域の子どもたちの面倒を見るといった人たちですね。現状マーケット的には大きなお金を稼ぐことは難しいとされているけれど、コミュニティにとっては絶対に必要な人。
林:森を間伐してもまったく金にならない。しかし管理し続けて100年後、200年後に遺すという、実はすごく大事な仕事なわけですよ。にも関わらずマーケットの価値がまったくない。ここはやっぱり変えていかなきゃと思っているところなんです。
尾日向:エネルギー事業がまさに当てはまりますね。LPガスの供給は、人力で運んでコミュニティに貢献しているわけですからほぼエッセンシャルワークに近い。だけど扱っているものがエネルギーなので差別化が効かない。高付加価値にならない。結局、そこに従事する人に何千万円もの給与が払えないんです。
そこにどうキャッシュポイントをつくるかが重要だし、キャッシュをコミュニティの中で循環させる仕組みをつくってこその地産地消ですよね。『SOCIAL ENERGY』は外部にキャッシュが出ていくのをできるだけ避けるようにつくられていますが。
林:やはりその地域を構成する全員が投資家であり、労働者であり、受益者であるべきなんだと思います。資本主義はそれらを完全に分断していますから。資本を持っていて、自ら働いて、かつ利益を得るということが一体にならないと難しいですよね。
加えてこれをやったら誰が喜ぶかなとか、誰が困るかなということが顔で想像できるようにならないと。
―そういった意味も含まれているんですね、150人という数字は。
尾日向:なるほど、確かにリアリティがありますね……150人。今回のコロナでいえばエッセンシャルワーカーとして医療従事者がフォーカスされましたよね。あれは存在の大切さがわかりやすかった。だから顔がわからなくてもみんな拍手したり、照明を焚くなどのアクションができた。ああいう価値観を大切にしていきたいですね。
サービスの受益者にリハビリテーションをかける
林:いまは過渡期なので、従来の資本主義的な経済価値をチューニングして上手く辻褄をあわせる必要があります。でもそれ以前に「自分たちが生きていく社会をどうやってつくっていこうか」ということに対しては、一人ひとりにリハビリテーションを施す必要があるなと感じています。
―リハビリテーション?
林:僕は10年ぐらいローカルの仕事をしているんですが、ここ1~2年で潮目が変わったと感じていて。地方自治体からの相談のうち、地方創生に関する内容に代わって「自治体の機能をダウンサイジングさせたい」というものがすごく増えてきているんです。維持できないということですね。
少子高齢化に加えて人口減で、税収が減っている。その反面、社会保障費は上がる一方。財政的に厳しくて、いろいろな行政サービスをどうやったら縮小できるかという悲痛な声です。悲観的な話ですが、パブリックのあり方を新しくデザインするタイミングでもあるかなと捉えています。
尾日向:この話もエネルギーに当てはまりますね。象徴的なのが仙台市の都市ガス。民営化の話がかなり以前から出ていました。仙台は非常に大きなマーケットであるにも関わらず、です。ガスだけでなく、水道を含めた公共のインフラすら維持が難しくなっているんですね。
隙間ができているんです。官ではできない、民ならできるかもしれないという隙間が。テクノロジーをいかに使うかによってコストを最適化して極小化できる。ただし民はリスクもあります。パブリック化の思想も社会的には正しいのかもしれません。
林:おっしゃる通りですね。日本なりの形を模索していくべきでしょう。特に資本主義市場における一企業の私有物化によるリスクはすごく大きい。ヨーロッパでは一度民営化したインフラを再公営化する動きがでてきています。
尾日向:日本の場合は文脈もフェーズも違いますから一概に言えないかもしれませんね。ただ一つ間違いないのは民間企業の知見や技術、テクノロジーを持ってすればかなり効率を上げられるということです。
林:あとはコミュニティパワーですね。行政サービスっていうのはアウトソーシングですから、サービサー対受益者という構図になるわけで。地域のおじさんが行政に文句言うんですよね、なんでこれをやってくんねえんだって。そこにリハビリテーションが必要なんですよ。文句ばっかり言ってるんじゃなくてみんなでやらなきゃですよねという。
「あそこのおばあちゃんが困っているな」とわかれば行って助けてあげる。コミュニティパワーってそういうことなんです。それでたいていのことは解消できる。ここに民間の技術と知見のあわせ技をかませば、インフラは無理なく回っていくはずです。
尾日向:そのときにインフラが一企業の私有物だったりするとリスクが高いですよね。外資の出資規制の対象とする業種を決めればいいといったように単純な問題化に矮小化することなく、日本の大手でも10年後残っているかどうかわからないといった認識を持つことが必要な時代にどんどんなっていくでしょうね。
効率化・合理化は、手を付けるべき課題であることは間違いない。しかし、社会の将来にわたるグランドデザインの無い中での部分最適に陥り、地域インフラが機能不全するようなことはあってはならないですよね。
林:それが地域住民、つまり受益者が投資家となり、出資参画するような新しい基盤が必要だという考え方の背景なんです。僕らはそれをローカルコープと呼んでいます。民間企業の技術やスキームも取り入れ、地域の自治運用をするモデル。単なる民営化ではなくコモンズ化なんです。
尾日向:そこに我々も参画していくという流れですね。ワクワクしますね。
社会におけるOSをつくりたい
―ローカルコープはどこから稼いでくるんでしょうか。
林:稼いでくるという言葉とフィットするかわかりませんが、いったんは行政のコストシフトかなと思っています。行政がそのまま非効率な状態でやっていたら、社会保障費がある地域で年間1億かかるとする。それを三ッ輪ホールディングスと組んだローカルコープがソリューションを実装することで5000万円まで引き下げることができた。そのうちの一部を払っていただくということですね。
尾日向:そうすると行政の役割もまた変わってきますよね。最低限の徴税とセーフティネット作りとか。やりながら見えてくることもありそうですね。
林:行政の構造的な問題ってありますよね。スペシャリストでもプロフェッショナルでもないのに観光やったり、街づくりやったり、福祉やったり。さらにスタッフは3年で異動ですから知見もノウハウも貯まりません。
―ローカルコープが第2の行政になればいいですね。
尾日向:コストシフト以外にマネタイズできるポイントってどんなものが考えられますか?
林:たとえば…従来型のマスマーケティングが効かなくなっているいま、企業に街やローカルというリアルな接点をコーディネートし、企業の商品やサービスを売ったり、提供いただくことを考えています。企業としては、一つの地域で良い実装例ができたら、水平展開が容易になります。
ローカルコープが各社のソリューション開発および実装をコンサルティングすることで、社会課題の解決と、地域に住む人の生活に直結する商品やサービス群を生んでいく仕組みづくりに取り組みたいと思っています。社会におけるオペレーションシステム(OS)ですね。OSに載せるアプリはいろんな企業が開発すればいい。
尾日向:と、いうことはローカルコープのマーケットは地域の人たちに加えて、ローカルコープを通して外から企業がその地域の人たちに商品を売る窓口の役割も担うことになるんですね。
林:あともうひとつは、カーボンニュートラルやSDGs文脈ですね。「カーボンニュートラルな街づくりに対して大企業がESGの観点でふるさと納税をする」とか、「Jクレジットを発行して買ってもらう」とか。いままでお金にならなかったものを、環境価値としてマーケットに売れる素地ができはじめてきています。
―思想だけでなくマネタイズも成立するように世の中も変わりつつあるんですね。
尾日向:もうひとつ、私が課題だと思っていることがあります。私たちの世代は常に「上昇志向」「競争で豊かさを掴み取る」という価値観で教育されてきました。でも、そうじゃなくても幸せな生き方がある。僕はそれを2年間の長野での出向生活で気づいたんですね。周囲がそうだったので。で、さっきリハビリっていう話があったけど、それを気づかせるのって難しいんじゃないかと。
―ある程度のところで幸せを感じられる価値観を共有するということですか。
尾日向:そうですね、そうしないと林さんが目指している世界はできないんじゃないか。「俺だけ稼いでやる」という人がいると崩れていきますから。だけど、いま生産側にいる私たちの世代はかなり強固に上昇志向の価値観を刷り込まれている。うちの子供の教育を見ていてもそれは変わっていないようです。
林:教育は変えないと難しいですね。ボトルネックだと思っています。ここは着手しないと。社会のOSを作る上でも基本機能が教育やエネルギーだと認識しているので、かなり変えないとちょっとしんどいなあって思いますね。
尾日向:で、僕がいつも考えが止まるのが教育のところなんですが、ある程度のところで幸せを感じる教育をしたとする。そうすると今度は「その教育で国際競争力を保つことができるのだろうか?」と。日本のプレゼンスが落ちてしまうんじゃないか。いくらある程度満たされれば幸せといっても、他国に劣後する経済状況でいいのか。この二律背反。いつもここでスタックするんですよ。
林:国際競争力という観点でいうと当然、国として科学技術における基礎研究やAI、ITへの投資などをすべきだというのはあります。ただこれは僕の個人的な感覚なんですが、そもそも国家という枠組みっていつまで残るのかなという疑問もあります。それを超えていくことに答えがあるんじゃないかと。
もちろん現段階では国家は存在するものなので、予算をどう再配分するかなどは大事な問題だと思います。しかし、もう少し俯瞰してみると「国家という枠組みに頼らなくても生きていける社会」をつくることも考えていくべきではないでしょうか。
文化をどう作っていくか
林:地方でみんな一生懸命商品作って、地方創生だといって東京の商談会に来て売ろうと頑張っているんですよ。で、有楽町のアンテナショップとかに出店すると。10年ぐらい前までは見渡すと「おっ!」というキラリと光る商品があったりしました。でも、いまは違う。どれもデザイナーが入っていって、どれもちゃんとしている。にも関わらず欲しいものが見つからない。
これが資本主義とマーケットが生み出した結果なんです。どんどん収斂してより良いものを安く、を繰り返していく。それを見て思うのが、「そもそもこの競争に乗る必要あった?」ってこと。それより、地元の1万人がおばあちゃんから孫の代まで、そのお店の商品を買い続けてくれたほうがいいんじゃないかと。
そういう世界でやるなら頂点目指す覚悟がないとね。いい感じの商品が出て、大企業がそれを見て「うちでもやろうよ」ってなったら大きな資本突っ込んできて、あっという間にもっていかれますよ。その勝負をするのかと。それをすることで本来の持ち味、いいところまで失われてしまう。
―聞いていてつらいですね。
林:だから文化をどう作っていくかだと思うんです。文化って優劣ないですよね。文化的な価値を世界に発信していく方向にいかないと厳しいと思います。文化価値でいかないと、結局マーケットの価値でも負けてしまうんです。
尾日向:科学技術やスタートアップへの投資を増やすことは当然として、ロングスパンで見ると文化を育てていく必要があるってことですか。なるほど、教育に当てはめれば「哲学」、柔らかく言うと「自分の考え」ですね。文化に優劣がないということと同じで、自分としてはこう思うよ、という話ができる人。自分が価値を感じるのはこれなんだ、と表明できる人が増えていくといいのか。
あとはもう、まさにいま過渡期なんでしょうね。今後、ひとりひとりの動きがエッジ効いたものになっていくと変わってくるのかな。そこには大いに期待したいところですね。
林:高度成長期のときは国家と教育がセットでしたからね。右肩上がりだと分配もしやすいし。どのレイヤーの人も頑張れば報われた時代です。でもいま、頑張っても報われない。努力したって報われる保証はない。逆に適当にやってる奴が成功したりする。そういう状況にいつまで付き合うのかということです。
自治体も大企業も変わらないといけないと思っている。そこに、変わるのならこうしませんか、と導いていくのが僕らの役割です。それぞれの中の人が悪いわけじゃない。システムがいけてないからこういう流れになっているだけ。その人たちに対しておかしいって言ってもしょうがないんです。それより、こういう風に行きましょうよと上手く誘導したほうが新しい社会は作れると僕は思っています。
尾日向:僕らの業界にも言えることですね。みんな良かれと思って、レガシーなことをやり続けている。他の業界から見ると、ずいぶん変わった商習慣もあります。ライフサイクルの長い業界に共通した側面かもしれませんね。しかし、そこに乗り込んでいって「変えるんだ!」と声高にやっても、1企業の力で変えられる商慣習や仕組みなどないので、変革とは程遠い結果しか得られない。本末転倒ですね。やはり、成功事例、いや成功にまで至っていなくとも、「これ面白いんじゃないか」と感じてもらえる取り組みを目に見える形にして発信していくことが、変革の輪を広げていくには最も近道だと思います。だから『SOCIAL ENERGY』や新たにはじまる『SIL』などで事例を作っていくことがメッセージになるんじゃないかと。
100年後も地球と生きるために
―SIL立ち上げの経緯を聞かせてください。
林:個人的な話になるんですが、いま僕には5歳と3歳の娘がいまして。いまの子どもたちって平均年齢100歳を超えるんです。ということは100年後、かなりの確率で僕の娘たちは生きている。その時に、なんだ私たちの父ちゃんは何もしてなかったのか、と言われたくない。それが嫌だなと思ったのがきっかけです。
尾日向:うんうん。
林:でもこのままだと制約条件が減ることはなく、増えていくばかり。たとえば身近なところでいえば寿司ネタがなくなっていきます。これまで僕らが普通に食べていたいろんな寿司が、すべて過去のものになる。あるいは夏になるとめちゃくちゃ暑くて外出できなくなるとか。
尾日向:そうやって考えると100年後ってそんなに先じゃない。時間に限りがある中でいくつもの制約条件をできるだけ抑えること。それが地球で暮らし続けるためには必要だと。
林:SILでは、「100年後も地球と生きる」を共通目的にしています。ポスト資本主義の具現化と同じです。言い方の角度、切り口が異なるだけ。OSを作ろうという点も同じですし。自分たちで自治をすることでCO2を抑制するとか、ゴミをどうやって減らすか、という。今日お話した地方から取り組むポスト資本主義の話とすべてリンクします。
尾日向:それが思想に賛同して集まってきた企業やスタートアップにとっての究極的な共通目標として掲げられているんですよね。しかも同時に我々のような企業や関わる人たちの問題解決にも取り組んでいく。はじまったばかりですが、やりがいのあるプロジェクトだと感じています。
林:ありがとうございます。三ッ輪ホールディングスさんがいち早くトップパートナーという立場で参画してくださいましたよね。
尾日向:私は常にヒリヒリするというか、ギリギリのところを攻めている感覚が日常にないと楽しくない性分なんですよ(笑)。それが最大の行動原理でもある。もう少し落ち着いた表現にすると、新しいものを作り出す現場、挑戦する現場に身を置いていたいと。会社のミッションでもありますが、新たな価値を創造し続けるということが結果として社会的価値につながると思っています。
そして私のようなタイプの人間が日本にもっと増えてほしいと思いますし、それが受容される社会にしなければとも考えています。これまでのように「挑戦しました。しかし、失敗しました。ハイ終わり」というルールは壊したいんです。
林:三ッ輪ホールディングスさんってもともとそういう気質の会社なんですか?
尾日向:自社のことを客観的に評価するのは難しいですが、私に代替わりしてからその色は強まった、とは言えるのではないでしょうかね。ファーストキャリアでコンサルという、それこそ資本主義の最先端みたいなところで丁々発止やってたこともあるかもしれないんですが、生きがいを感じるのは挑戦そのもので、常にそうした場にいたいという判断軸を持っています。
でも私は別に特別ではない。同じような性質の人間っていっぱいいると思うんです。私は幸運にもこのような立場だから今回のような取り組みも自分の判断でできるんですが、一介の勤め人というポジションだとなかなかできないことだということはわかっているつもりです。
―それで三ッ輪ホールディングスでは挑戦しやすい風土を作っているんですね。
尾日向:SILのお話を林さんからうかがって、30分で「やります」と即答しました。それはプロジェクト自体の面白さもありますが、こういった舞台で私たちが挑戦と失敗を繰り返しながらも成果を出すことにこだわる姿が、世の中にたくさんいるはずの、くすぶっているチャレンジャーの背中を押すことにつながっていけば、という想いもあったんです。僭越至極ですが。
林:三ッ輪ホールディングスさんに特別パートナーとして入っていただきたかったのは、僕らはOSを作りたいとは言うものの、エンジニアリング機能は持ち合わせていないんです。設計思想はあるけど、具体的にエネルギーをどういう仕組みにしたらいいのかわからない。そういう部分に三ッ輪ホールディングスさんの知見とテクノロジーを活かしていただきたいんです。そうすることでOSのレベルが飛躍的に上がるし、実現可能性もかなり高いものになる。本当に期待しています。
尾日向:私はよく自分のマネジメントを「放置」と表現しているのですが、「新たな価値を創造し続ける」というミッションに共感し、当社で共に働いてくれているプロフェッショナルたちは、自律かつ自立的に活動してくれています。エネルギーはもちろんですが、そのほかにも幅広い領域の専門性の高い人材も増えてきました。それがまさに林さんが期待するところの「機能」として存在価値を発揮すると考えています。そういう意味ではとても良いマッチングだと思います。当社以外にも各分野のプロが集まり、林さんの言う“新しいOS”を組み立てていく。各自が自分の領域を俯瞰できる専門性があることで、集まれば“複眼的視点“を持ったチームとして、”新しいOS“の解像度を高めたり、もしかするとOSの設計思想にも新たな観点をもたらすかも知れない。考えるだけでふつふつと湧いてくるものがありますよ。これからさらに協業を深めていくことを、とても楽しみにしています!
―本日はおふたりともありがとうございました!
■三ッ輪ホールディングス株式会社 代表取締役社長 尾日向 竹信
1980年生まれ。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修了。その後入社した野村総合研究所ではコンサルタントとして活躍し、2007年5月三ッ輪産業株式会社に入社。三ッ輪液化瓦斯株式会社の代表取締役を経て、2015年11月に三ッ輪産業株式会社の代表取締役に就任。2019年10月には三ッ輪ホールディングス株式会社を設立し、代表取締役に就任。
■株式会社Next Commons Lab代表取締役/一般社団法人 Next Commons Lab ファウンダー 林 篤志
1985年生まれ。豊田高専卒業後、エンジニアを経て独立。2009年に自由大学、2011年に土佐山アカデミーを共同設立。2016年、一般社団法人Next Commons Labを設立。自治体・企業・起業家など多様なセクターと協業しながら、新たな社会システムの構築を目指す。Forbes Japan ローカル・イノベーター・アワード 地方を変えるキーマン55人に選出(2017)。