■ダイジェスト版
【特別対談】新しい社会システムの構築に挑む深い思想、卓越したテクノロジー、そして飽くなきチャレンジマインド。

当社代表取締役 尾日向 竹信(左)
株式会社Next Commons Lab代表取締役/一般社団法人Next Commons Lab ファウンダー 林 篤志氏(右)

2021年5月、三ッ輪ホールディングスはNext Commons Lab(以下NCL)が主催する社会課題解決に向けたイノヴェイション・プラットフォーム『Sustainable Innovation Lab(以下SIL)』に運営・構築を担う特別パートナーとして参画しました。企業や行政、自治体と連携しながら、まだ見ぬ社会を切り拓くための実験的なプロジェクトを展開するNCL。「新たな価値を創造し続ける」をミッションに、エネルギーの新たな可能性に挑戦する三ッ輪ホールディングス。タッグを組んだ2つの法人のトップに、ポスト資本主義、地方自治の問題点、SILに向けての意気込みを聞きました。

(本記事は要約されたダイジェスト版です。オリジナル版はこちらからお読みいただけます。)

変えるのが困難なら新しくつくろう、という発想で

尾日向:今日はあらためて、林さんが主宰するNCLが何を目指しているのかといったところからお話できればと思っています。最初にお会いしたときの印象として、どのスタートアップの人よりも思想の深さと実現可能性の高さを強く感じたのですが。

林:ありがとうございます。NCLが目指しているのは「ポスト資本主義を具現化する」ということです。長らく続いてきた資本主義という社会システムが限界を迎えつつあるなか、どうすれば変えることができるかと模索してきたんですね。

尾日向:最初は高知でソーシャルビジネスを立ち上げたそうですね。それだけなら単なる地方創生プロジェクトの一例という捉え方になってしまいますが、そうじゃなかった。

林:ずっとモヤモヤを抱えながら活動するなかで行き着いた結論が、「社会を変えるのが難しければ既存の制度をベースにしつつ、新しくつくればいいんじゃないか」ということ。時期的に技術革新、テクノロジーの進化が加速しつつある頃で、そこに可能性を感じたのがNCL立ち上げのきっかけです。

尾日向:日本には戦後に爆発的な経済成長を実現するために組み上げてきた経済・政治・行政の仕組みという“社会的アセット”があると思います。「高度経済成長期」という成功体験も相まって、変わりにくい土壌、というものを強く感じますよね。

その現状に対して、それなら新しくつくろうというのは、斬新な発想だなと思います。しかし、新しいものをつくると既存の“社会的アセット”、それこそ資本主義という巨象にばっくり食べられるという例を過去にいくつも見てきましたし、私も実際に自社の新規事業分野の中で体験してきました。そのあたりについては…。

林:そうですね……だからこそ、これまでの資本主義社会を否定したり攻撃するのではなく、うまく利用しなくてはと考えています。いまの社会で誰がリソースを持っているかを冷静に見極めて、その人たちと有効につながる。ひと言でいうと資本主義をハックするということです。うまく内側からハックして新たな社会構造、つまりオペレーティング・システムを持とうと。

尾日向:我々とのコラボレーション第一弾である電力プラットフォーム『SOCIAL ENERGY』(※)に当てはめると、どのあたりがハックにつながるんでしょう。

林:『SOCIAL ENERGY』では組合型株式会社というスキームを導入しています。どれだけ出資いただいても議決権は一票しか持てない組合的な株式会社が運営母体です。『SOCIAL ENERGY』上で電力サービスを展開する各地のローカルプレイヤーも必ず株主に参画いただくことで、実際に価値を生み出し社会にインパクトを与える当事者同志が、会社を受け皿として共同所有し、利益もしっかり分配する。こういった取り組みから新しい社会のあり方をプロトタイピングしているんです。

ひとりひとりの価値観をアップデートするためにも教育は大事

尾日向:林さんは資本主義の特にどのあたりに問題点、懸念点を強く感じているのでしょう。新しくつくるといっても既存のまま残したほうがいいものもあると思いますし、優先順位もあるかと考えますが。    

林:マーケットなどは非常に優れた機能を持っていますね。一方でシステム的にバグってると感じるのは金融資本主義です。「富の格差」というひとつの軸だけで、社会での活動範囲や可能性が縛られている。何でも「これは金になるのか?」という価値基準。外部にコストを押し付けるのも大きな問題だと思います。

尾日向:自然を壊してソーラーパネルや風力発電の設備を建てるのも、コストの外部化ですね。そして地域の人からみても、「一銭にもならない山なら全部伐採して、パネルを敷き詰めたほうが再生エネルギーも生み出せるし何より金になる」と思うのもまた当然の選択、と評価されたりしますよね。こうした、当事者にとって実質的には選択肢がない状態の中でする「選択」というのは、敢えて強い言葉を使えば、「選択している」のではなく「搾取されている」と考えるべきと思います。

林:そうなんですよね。その結果、山が弱くなって土壌が流出するとか景観が失われるとか、いろんなコストを払うことになる。または未来に対してコストを外部化しているのに過ぎません。だけど、いまオーナーを批判するのは酷な話。なんといってもシステムが悪いんだから。

尾日向:システムを変えるだけでなく、ひとりひとりの価値基準もアップデートしていかないと結局のところ目指す社会は達成できないのでは?と懸念することがあります。しかし一方で私を含めて生産人口とカウントされる世代が受けた教育は「上を目指せ」「競争に勝て」という資本主義がベース。教育についてはどう思います?

林:教育は大きな課題ですね。ボトルネックだと思っています。社会のOSを作る上でも基本機能として教育やエネルギーがあると認識しているので、かなり変わったものを新しくつくらないとスタックしてしまいます。

尾日向:そうですよね。で、ここからが悩ましいのですが、ある程度のところで幸福を感じる教育を施したとして、それで国際競争力を保てるのか、ということ。ある程度満たされれば幸せといっても、他国に劣後する経済状況になることは果たして是なのか。

林:国際競争力という観点でいうと、当然国として科学技術に対する基礎研究やAI・ITへの投資は積極的に行うべきでしょうね。

一方で世界におけるプレゼンスという問題はありつつも、僕の視点は「そもそも国家という枠組みもいつまで残るのだろうか」というところにあります。国家に頼らずとも生きていける社会のほうが健全ではないでしょうか。

挑戦や失敗を受容する舞台をつくりたい

林:そして何より、文化をどうつくっていくかのほうが大事だと思います。文化って優劣ないですよね。日本の文化的な価値を世界に発信する方向にいくべきではないでしょうか。右肩上がりの高度成長期なら国家と教育をセットで成立しました。どのレイヤーも頑張れば報われましたからね。でもいまは違う。

尾日向:なるほど、教育に当てはめるとそれは…哲学ですかね。自分なりの哲学を持つということ。文化と同様に「自分としてはこう思う」という意思表明にも優劣はありませんしね。そういう考え方や主張ができる人が増えていくといいのか。それも含めてまさにいま、過渡期だなと思います。

林:自治体も大企業も「変わらなきゃ」とは思っているんです。だから「変わるならこうしませんか」と導いていくのが僕らの役割。行政も企業も地域も、中の人は悪くない。資本主義のシステムがいけてないから閉塞感が生まれているわけで。中の人たちにおかしいでしょ、と言っても仕方がないんですね。

尾日向:確かにエネルギー業界もレガシーなことが多い。そこに乗り込んでいって「変えるんだ!」と声高にやっても、1企業の力で変えられる商慣習や仕組みなどないので、変革とは程遠い結果しか得られない。本末転倒ですね。

やはり、成功事例、いや成功にまで至っていなくとも、「これ面白いんじゃないか」と感じてもらえる取り組みを目に見える形にして発信していくことが、変革の輪を広げていくには最も近道だと思います。だから『SOCIAL ENERGY』 や『SIL』での取り組みで事例をアウトプットすることが何よりのメッセージになるんじゃないかと期待しています。

林:『SIL』は100年後も地球で安心、安全に暮らせる状況をつくるためのソリューション開発と実装を目指していくのですが、三ッ輪ホールディングスさんはいち早くトップパートナーとして参画を表明してくださいましたね。

尾日向:私の行動原理として、常に新しいものを生み出す現場に身をおいていたいというものがあります。会社のミッションでもあるのですが、新たな価値を創造し続けていくことが結果として社会的価値につながると。そのためには、「挑戦しました。しかし、失敗しました。ハイ終わり」という風潮をなくしたいんですね。

林:会社や事業の先入観から伝統のある、重厚長大なイメージを勝手に抱いていたのですが、尾日向さんからはお会いした瞬間からいい意味でのギャップを感じていました。非常にアグレッシブで、僕らの話を本質的なところで理解してくださいましたよね。

尾日向:今回『SIL』の構想を聞いて、30分で「やります」と即答しました。それはプロジェクト自体の面白さもありますが、こういった舞台で私たちが挑戦と失敗を繰り返しながらも成果を出すことにこだわる姿が、世の中にたくさんいるはずの、くすぶっているチャレンジャーの背中を押すことにつながっていけば、という想いもあったんです。僭越至極ですが。

林:三ッ輪ホールディングスさんに特別パートナーとして入っていただきたかったのは、僕らはOSの設計思想はあるけど、エンジニアリング機能を持ち合わせていないからなんです。具体的にエネルギーをどういう仕組みで扱えばいいのかわからない。そこに知見とテクノロジーを注ぎ込んでほしいと。

尾日向:私はよく自分のマネジメントを「放置」と表現しているのですが、「新たな価値を創造し続ける」というミッションに共感し、当社で共に働いてくれているプロフェッショナルたちは、自律かつ自立的に活動してくれています。

エネルギーはもちろんですが、そのほかにも幅広い領域の専門性の高い人材も増えてきました。それがまさに林さんが期待するところの「機能」として存在価値を発揮すると考えています。そういう意味でもとても良いマッチングだと思います。

当社以外にも各分野のプロが集まり、林さんの言う“新しいOS”を組み立てていく。各自が自分の領域を俯瞰できる専門性があることで、集まれば“複眼的視点“を持ったチームとして、”新しいOS“の解像度を高めたり、もしかするとOSの設計思想にも、新たな観点をもたらすかも知れない。

林:これでOSのレベルが飛躍的に上がるし、実現可能性もかなり高いものになる。地方創生とSDGs達成、さらに長い目でポスト資本主義社会の具現化に向けてお力を借りたいと思います。

尾日向:こちらこそよろしくお願いします。

■三ッ輪ホールディングス株式会社 代表取締役社長 尾日向 竹信

1980年生まれ。慶應義塾大学大学院 理工学研究科 修了。その後入社した野村総合研究所ではコンサルタントとして活躍し、2007年5月三ッ輪産業株式会社に入社。三ッ輪液化瓦斯株式会社の代表取締役を経て、2015年11月に三ッ輪産業株式会社の代表取締役に就任。2019年10月には三ッ輪ホールディングス株式会社を設立し、代表取締役に就任。

■株式会社Next Commons Lab代表取締役/一般社団法人Next Commons Lab ファウンダー 林 篤志氏

1985年生まれ。豊田高専卒業後、エンジニアを経て独立。2009年に自由大学、2011年に土佐山アカデミーを共同設立。2016年、一般社団法人Next Commons Labを設立。自治体・企業・起業家など多様なセクターと協業しながら、新たな社会システムの構築を目指す。Forbes Japan ローカル・イノベーター・アワード 地方を変えるキーマン55人に選出(2017)。

※『SOCIAL ENERGY』とは電力のOEM販売プラットフォームを展開する株式会社イーネットワークシステムズ(三ッ輪ホールディングスグループ)が株式会社Next Commons Labと提携して生まれたサービス。地域課題の解決を持続的に支える新たな形の電力事業として注目を集めています。